大阪高等裁判所 平成6年(ネ)2457号 判決
大阪府交野市妙見東二丁目二番一〇号
控訴人
中井昭夫
右訴訟代理人弁護士
岩田喜好
杉本啓二
右輔佐人弁理士
山下賢二
福島県相馬市初野字栗原三〇一番地
被控訴人
有限会社 広布堂
右代表者代表取締役
小野志郎
右訴訟代理人弁護士
木村修治
右輔佐人弁理士
八鍬昇
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
以下においては、控訴人を「原告」と、被控訴人を「被告」とそれぞれ表記する。
第一 申立て
原告の請求の趣旨は次のとおりであり、原審が請求を棄却したのに対し、原告は、原判決取消しの判決とともに次の請求の趣旨のとおりの判決を求めた。被告は控訴棄却の判決を求めた。
(請求の趣旨)
一 被告は、原判決別紙物件目録記載の鏡餅成形包装用の各容器及び同容器に充填した鏡餅を製造し、譲渡し、譲渡のため展示してはならない。
二 被告は、前項記載の鏡餅成形包装用の各容器及び各容器製造のための金型各一組を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、一一五万二〇〇〇円及びこれに対する平成六年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金額を支払え。
第二 事案の概要
一 原告は、次の実用新案権を有する(争いなし)。
登録番号 第一八一二五七一号
考案の名称 鏡餅成形包装用の容器
出願日 昭和五六年一一月一一日(実願昭五六-一六八七三二)
出願公告日 平成元年六月一五日(実公平一-二〇三〇二)
設定登録日 平成二年四月一八日
(実用新案登録請求の範囲)
適宜の厚みを有し、かつ円弧状に膨らませた周壁下方から下面がわの中心方向に延設させた底部の中央に該底部面積に比較して小さな小穴を設けしめた鏡餅形状をなす合成樹脂製の容器本体と、
この容器本体の厚みより薄くし、かつ上記小穴よりも大で底部の面積よりも小さく形成させて該小穴の周辺部に融着するようにしたシール片とからなる鏡餅成形包装用の容器。(原判決別添実用新案公報参照)
二 本件考案の構成要件(分説)
1 適宜の厚みを有し、かつ円弧状に膨らませた周壁と
2 周壁下方から下面がわの中心方向に延設させた底部と
3 底部の中央に該底部面積に比較して小さな小穴を設けた
4 鏡餅形状をなす合成樹脂製の容器本体と
5 容器本体の厚みより薄くし、かつ、小穴よりも大で底部の面積よりも小さく形成させた該小穴の周辺部に融着するようにしたシール片
6 以上からなる鏡餅成形包装用の容器
三 本件考案の作用効果
本件考案は右構成をとることにより、次の作用効果を有する。
(1) 鏡餅形状をなす容器本体の底部は、該本体の周壁下方を下面側の中心方向に延出せしめて形成しているので、この容器本体をブロー形成の手段によって形成し得るとともに、周壁下方に円弧状に膨出させた丸みをもたせることが可能となってお供え用の鏡餅にふさわしい端正な形状の容器が得られるのであり、しかも底部そのものが包装としての機能を有しているため、衛生的であり、単なる裏蓋の接合目的しか有しない張出しフランジを形成するのと異なり使用材料に無駄が生じない。さらにこの底部の存在により、容器本体を上下方向の軸芯を中心として回転させながら餅の充填を図らしめる際、この餅を外部にあふれ出させることなく本体周壁内面に強く押し込ませ得て、充填作業を速やかに行い得る(公報三欄二八行~四三行)。
(2) 本体底部に設ける小穴は該底部面積に比較して小さく形成することで足りるので、この小穴を閉塞させるシール片は該小穴よりわずかに大きくしておくことで閉塞の目的を達し得るとともに、たとえシール片がはがれても内部の餅は本体底部で支えられて包装状態を維持し得るのであり、しかも右シール片は容器本体の厚みより薄くしているので、融着作業を迅速かつ簡易ならしめるとともに、開装除去を簡易となし、さらに小穴閉塞後において本体内に充填させた餅の体積が高温殺菌、冷却等の理由で増減しても、その影響はシール片に吸収されることになって容器本体を変形させる弊害をなくし得る(公報三欄四四行~四欄一二行)。
四 被告の行為
被告は、原判決別紙物件目録記載の鏡餅成形包装用の各容器(被告物件)を使用し、右各容器本体に餅を充填し円形シール片で閉塞して一体化して、鏡餅成形包装容器入り鏡餅を業として製造販売している(争いなし。原告は、被告が被告物件を製造するための金型各一組を製造し、これらを利用して被告物件の製造を継続していると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない)。
五 本件考案と被告物件の対比
被告物件が、適宜の厚みを有し、かつ、円弧状に膨らませた周壁と、周壁下方から下面側の中心方向に延設させた底部と、底部の中央に該底部面積に比較して小さな小穴を設けた、鏡餅形状をなす合成樹脂製の容器本体とから成る鏡餅成形包装用の容器であり、本件考案の構成要件5を除き、その余の構成要件を具備していることは、被告も認めるところである(「底部」の範囲については原告と被告の間に主張の隔たりがあるが、「底部」について原、被告いずれの主張によっても、被告物件は、本件考案の5を除く構成要件を具備することになる)。
六 請求
原告は、被告物件が本件考案の技術的範囲に属することを理由に、請求の趣旨記載の判決を求めた。
七 争点
1 被告物件が本件考案の構成要件5を充足するか。
2 前項が肯定された場合、原告に生じた損害金額。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告物件が本件考案の構成要件5を充足するか)
1 原告の主張
1-1 本件考案における「底部」の意義
(1) 本件実用新案登録請求の範囲にいう「底部」とは、容器の底面ではなく、偏平化された上下二つの球状体の最膨出部から下の部分(公報三欄六行ないし七行によれば、「容器本体の周壁下方より下面がわの中心方向に向けて延出状に形成した」部分)、あるいは少なくとも本件容器を台座に置いた場合に、シール片の周縁が外部から視認されない範囲を意味する。その理由は、以下のとおりである。
本件考案は、出願前の鏡餅容器の公知例が容器本体の底面にフランジを形成させている(特公昭四九-四六九一〇=甲三、同昭五四-四三五八八=甲四)ことによる形状的なイメージ及び容器本体の機能上の問題点を克服せんがため、鏡餅の形状そのものを容器とし、フランジをなくすことを目的とするものである。
したがって、従来の公知例にあるような、フランジを延設するための平坦な接地部分を有する底面ないし底板といったものは、考案の前提とはなっておらず、むしろ、そうした従来の容器にみられる発想を打破したところに特徴を有するものである。
つまり、鏡餅の形状そのものを容器とすることからすれば、接地部分の概念自体不要であり、鏡餅の丸みをもたせた部分(すなわち周壁下方)をも含めてこれを容器の底部とすることにより、
〈1〉 ブロー形成の手段によって形成し得ること、
〈2〉 お供え用の鏡餅にふさわしい端正な形状の容器が得られること、
〈3〉 底部そのものが包装としての機能を有しているため衛生的であり、かつ、使用材料に無駄が生じないこと、
〈4〉 底部の存在により、餅の充填作業を速やかに行い得ること、
の作用効果が得られる(公報三欄二八行~四三行)ことを目的とした考案なのである。
構成要件5、すなわち「容器本体の厚みより薄くし、かつ、小穴よりも大で底部の面積よりも小さく形成させた該小穴の周辺部に融着するようにしたシール片」を採用したことによる作用効果は、公報三欄二八行ないし三五行にあるように、「鏡餅形状をなす容器本体の底部は該本体の周壁下方を下面がわの中心方向に延出せしめて形成しているので、この容器本体をブロー形成の手段によって形成し得ると共に、上記周壁下方に円弧状に膨出させた丸味をもたせることが可能となってお供え用の鏡餅にふさわしい端正な形状の容器が得られるのであり、しかも底部そのものが包装としての機能を有しているため、衛生的であ」ることにある。すなわち、シール片を底部より小さくしたことの効果は、お供え用の鏡餅にふさわしい端正な形状の容器を得ること、つまり、シール片が底部から露出することにより、お供え用の鏡餅にふさわしくない外観を生じさせないことにある。この点は、本件実用新案登録出願手続の中で、原告が、昭和五九年五月七日付け拒絶理由通知書(乙七の1)に対する昭和五九年七月一六日付け意見書(乙八)三頁五行ないし八行で、「シール片の周縁が容器本体の底部外周に露出しないので、これを隠すような特別な手段が不要となる。」と主張していることからも明らかである。この点からみても、本件考案において本件容器を台座に置いた場合に、シール片の周縁が外部から視認されない範囲は、「底部」に該当することになる。
(2) 実用新案登録請求の範囲には、「適宜の厚みを有し、かつ円弧状に膨らませた周壁」と「周壁下方から下面がわの中心方向に延設させた底部」とが分けて記載されているのであって、後者の底部の構成要件が周壁を全く排除した下面に限定されるものでないことは明らかである。すなわち、右記載は、周壁の下方から始まり、下面側に至る部分を底部としてとらえていることを示すものであり、「底部」と「下面」を区別して記載しているのである。公報三欄二八行から三〇行にかけての「……鏡餅形状をなす容器本体の底部は該本体の周壁下方を下面がわの中心方向に延出せしめて形成している……」との記載も、本件構成要件についての右のような理解を前提としていることが明らかである。
被告は、本件明細書中の実施例についての説明の部分に、「……円弧状の丸味をもたせた周壁下方を下面がわの中心方向に向けて略水平状に延出させることにより該下面に底部3を形成し、さらにこの底部の中央には……小穴4を設けしめて……」(公報四欄二三行~二七行)とあることをもって、本件考案にいう底部は容器の下面に形成されたものであり、ほぼ水平状の形状をなすものであることを意味すると主張するが、実施例は本件考案の一例として掲げられているにすぎず、本件考案の技術的範囲が実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。同様に、本件考案の技術的範囲は、願書添付図面に図示されたところに限定されるものではない。むしろ、考案の詳細な説明では、本件考案にいう「底部」と区別して、「底板」(公報二欄四行、一二行)あるいは「下面」(公報二欄二一行、三欄六行、二九行)という語を用いており、この記載からみても、「底部」を「底板」なり「下面」と同一のものとは考えていないことが明らかである。
(3) 被告は、本件考案の出願から登録に至る間に原告が特許庁に提出した書類からみて、本件考案にいう「底部」の意義は、容器の接地部分であることが明らかであるとするが、右主張も理由がない。
まず、被告は、昭和五六年一一月一一日付けの実用新案登録願添付の明細書(乙一。当初明細書)の図面に底部として容器の接地部分が示されているとする。右図面は、下面を底部と表示しているが、このような表示があるからといって、被告の主張するように底部が容器の接地部分に限定されると表示したことにはならない。当初明細書の実用新案登録請求の範囲は、「内外面が鏡餅形状に形成された薄い実質的に均一厚みを有する容器本体における該容器底部に、この底部面積に比較してきわめて小さくされ、餅充填後において加熱変形ないしシール片の貼着により封止閉塞せしめうる小穴を形成したことを特徴とする鏡餅成形包装用の容器。」(当初明細書一頁五行~一〇行)というもので、本件考案での実用新案登録請求の範囲同様、「底部」を「下面」に限定するような内容のものではなく、当初明細書の「考案の詳細な説明」の欄においても、「底部」を「底面」(二頁七行)と区別して用いているのであって、本件考案の技術的範囲が当初明細書の実施例の説明や実施例の図面に限定される根拠になり得るものではない。
昭和五七年五月一七日付け手続補正書(乙二)において、実用新案登録請求の範囲が、「内外面が鏡餅形状に形成された薄い実質的に均一厚みを有する容器本体における該容器底部に、この底部面積に比較してきわめて小さくされ、餅充填後において加熱変形ないしシール片の貼着により略平坦な面となるよう封止閉塞せしめうる小穴を形成したことを特徴とする鏡餅成形包装用の容器。」(右補正書一頁二行~八行)と補正されているが、ここにおいて、「略平坦な面となるよう」にされているのは、シール片により封止閉塞せしめられた小穴であって、底部ではない。また、右補正書における「この小穴閉塞部が本体底部と略同一面を呈するよう、底部全体を平坦となしうることにより、該底部周辺の……」(右補正書二頁一一行~一三行)との記載は、実施例の説明の補正にすぎず、本件考案の技術的範囲を限定する意味を持つものではない。
昭和六〇年二月八日付け審判請求理由補充書(乙一四の1)四頁九行ないし一七行において、「然るに本願の容器本体の底部は、外方へ円弧状に膨らませた周壁下方から下面がわの中心方向に延出させることにより該本体の実質的な下面に形成させているので、この底部自体が包装という機能を有するのであり、しかも前記周壁下方を鏡餅らしく充分な丸味をもって外方へ膨出状に形成しうると共に、餅を充填させる開口をこの底部面積より小さい小穴として形成しうるのであります。」としており、ここにおいても、「底部」と「下面」とは区別して用いられ、しかも底部を「実質的な下面」という表現に置き換えているのである。
右審判請求理由補充書五頁二行ないし三行及び五行ないし六行に、「底部が容器本体の下面に存在している」という表現が二か所用いられているが、ここでは、本件考案の作用効果を説明するに際して、小穴を通じて内部に流動状の餅を充填させる際、容器本体を上下方向の軸心を中心に回転させながら行うとき、遠心力作用により外部に飛散させることなく餅を本体の周壁内面に向けて迅速に押し込ませ得ることの効果は、底部が下面側(実質的な下面)に存在していることからもたらされることを説明しているものであり、底部を下面そのものに限定する趣旨ではないことは、右審判請求理由補充書の記載全体から明らかである。
その他、本件考案の出願経過の中で、本件考案にいう「底部」を被告のいうような容器の接地部分に限定するような記載は一切見当たらない。
1-2 シール片が底部面積より小さく形成されていることが、本件考案の必須の要件であるとの被告の主張について
(1) 被告は、本件考案においては、シール片が、小穴より大きいが、底部(容器の接地部分)の面積より小さく形成されている点が、必須の要件であると主張する。この点は、1-1で詳述したとおり、本件考案にいう「底部」が容器の接地部分に限定されるものではないから、前提自体誤っている。
(2) 被告は、本件考案は、従来の容器が底部を全面的に開口させて、この底部側の外周にフランジを張り出し状に形成させているため、このフランジの存在により、お供え用の鏡餅としての形状的なイメージないし商品価値を損なわせていた点や、右開口部を閉塞させる裏蓋が、開口面積が広いために広面積のものを必要としていた点を直接改良したものなので、シール片が底部の面積より小さく形成されることが必須の要件であり、被告物件がこれを欠いていると主張するが、被告物件は従来の公知例のようなフランジはないから、被告の右主張も理由がない。
(3) 被告は、右主張の根拠として、シール片の大きさを底部面積より小さく形成するという要件は、出願当初には存在しなかったものが、昭和五九年五月七日付け拒絶理由通知書(乙七の1)で示された引用例(実開昭五六-八四九五九。乙七の2)を理由とする拒絶査定を回避するため、昭和五九年七月一六日付け手続補正書(乙九)において初めて加えられたものである(一頁八行~一一行)と主張している。しかし、本件考案の出願経過についての被告の右の理解は正しくない。右拒絶理由通知書は、出願当初の考案が「容器平面部に該平面部の面積より小さい小穴を形成し、かつこの小穴をシール片で封止した点」で、右引用例の考案に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるとしたものである。これに対し、原告は、昭和五九年七月一六日付け意見書(乙八)において、
〈1〉 「シール片が薄い」こと(二頁三行)、
〈2〉 「シール片が容器本体の厚みより薄くされ、かつ小穴の周辺部に融着するようになし、しかも該シール片を融着させる底部の小穴が該底部の面積より小さくされている」こと(二頁一二行~一五行)、
〈3〉 「シール片の周縁が容器本体の底部外周に露出しない」こと(三頁五行~六行)、
〈4〉 「小穴の位置が底部の中央にあり、かつその周辺部にシール片を融着させている」こと(三頁八行~九行)、
を挙げて、該引用例とは作用効果を異にする旨主張しているのであって、該引用例がテーパー付円筒状の容器本体に関する考案であり、フランジを有するものでないことにかんがみれば、右の〈1〉ないし〈4〉のうち、本件考案の技術的思想は〈3〉よりも、〈1〉〈2〉〈4〉にこそあるというべきであって、昭和五九年七月一六日付け手続補正書(乙九)の補正もそのような趣旨でされている。シール片が底部の面積より小さく形成されている点が、本件考案の必須の要件であるなどということはできない。
(4) 被告は、本件容器のシール片が被告の主張する底部より小さくないことだけをとらえて本件考案に対する侵害を否定するが、被告物件は、結局のところ、本件考案と全く同じ作用効果を奏する。特に、シール片が底部面積より小さいことの作用効果は、繰り返し指摘しているとおり、「鏡餅形状をなす容器本体の底部は該本体の周壁下方を下面がわの中心方向に延出せしめて形成しているので、この容器本体をブロー形成の手段によって形成しうると共に、上記周壁下方に円弧状に膨出させた丸味をもたせることが可能となってお供え用の鏡餅にふさわしい端正な形状の容器が得られるのであり、しかも底部そのものが包装としての機能を有しているため、衛生的であ」ることである(公報三欄二八行~三五行)が、被告物件も全く同じ作用効果を奏する。被告は、被告物件のシール片は鏡餅の接地部分の面積よりも大きいと主張するが、本件容器をお供えとして台座等に置いた場合に、被告物件も本件考案と同様にシール片が外部に露出するなどということはなく、お供え用の鏡餅にふさわしい端正な形状を有していることは明らかである。
2 被告の主張
2-1 本件考案における「底部」の意義
原告の主張によると、本件考案における「底部」とは、偏平化された二つの球状体のうち、下段の球状体の膨出部から接地部分にかけた広い範囲を指すことになる。しかし、これは、明らかに、願書添付図面に本件考案の実施例として図示されているところと異なる不当なものである。右図面によれば、底部は、容器の最下面の平坦な部分、つまり、台座等に置いた場合の接地部分が示されている。これは常識的に言っても、容器の底に当たり、底部と呼ぶにふさわしい位置にある。
本件実用新案登録請求の範囲の記載をみても、円弧状に膨らませた周壁と、その下方から下面側の中心方向に延設させた底部とは別の構成要件になっていることが明らかである。そして、実施例についての説明部分には、「……円弧状の丸味をもたせた周壁下方を下面がわの中心方向に向けて略水平状に延出させることにより該下面に底部3を形成し、さらにこの底部の中央には……小穴4を設けしめて……」(公報四欄二三行~二七行)とあるように、底部は容器の下面に形成されたものであり、ほぼ水平状の形状をなすものであって、原告主張のように、円弧状に膨らませた周壁を含むものではないことは疑いがない。
本件考案が登録に至るまでの間に原告が特許庁に提出した書類の記載をみても、右の点は十分裏付けられる。当初明細書の添付図面(乙一)及び昭和五七年八月二〇日付け手続補正書の添付図面(乙三)には、公報に本件考案の実施例として図示されているのと同様に、底部として、容器の接地部分が明瞭に指し示されている。その他、底部が容器の接地部分を指すことを前提に、「……平坦とされた底部3の略中央には……小さな穴4が形成……」(当初明細書三頁一行~四行。乙一)、「この小穴閉塞部が本体底部と略同一面を呈するよう、底部全体を平坦となしうることにより、該底部周辺の……」(昭和五七年五月一七日付け手続補正書二頁一一行~一三行。乙二)、「……下面に底部3を形成……平坦面とされた底部3の……」(昭和五七年八月二〇日付け手続補正書三頁一五行~一九行。乙三)、「……容器本体1は合成樹脂により適宜厚みの鏡餅形状をなし、かつその底部3は周壁下方の外方に膨らむ円弧面を介して下面がわの中心方向に延設せしめて形成すると共に、該底部の中央に該底部の面積より小さくした小穴4を設け……」(昭和六〇年二月八日付け審判請求理由補充書二頁一〇行~一五行。乙一四の1)、「……底部が容器本体の下面に存在しているので……」(同五頁二行~三行)、「……本体1は、周壁下方から底部3に至る間を外方へ円弧状に膨出させて鏡餅らしく丸味をもたせている……」(同六頁七行~一〇行)など、「底部」が、容器の接地部分であることを前提とする記述が随所にみられる。
2-2 シール片の意義
本件考案においては、シール片が、小穴より大きいが、底部(その意義については、2-1でみたとおり、容器の接地部分と解するべきである)の面積より小さく形成されている点が、必須の要件である。
本件考案は、従来のこの種容器が底部を全面的に開口させて、この底部側の外周にフランジを張出し状に形成させていたため、このフランジの存在により、お供え用の鏡餅としての形状的なイメージないし商品価値を損なわせていた点や、右開口部を閉塞させる裏蓋が、開口面積が広いために広面積のものを必要としていた点(公報一欄二四行~二欄三行、二欄九行~一二行)を直接改良したものなので、シール片が底部の面積より小さく形成されることが必須の要件である。
本件考案の出願経過をみても、シール片が底部の面積より小さく形成される点が必須の要件であることは明らかである。シール片の大きさを底部面積より小さく形成するという要件は、出願当初には存在しなかった。その旨の補正がされたのは、昭和五九年五月七日付け拒絶理由通知書(乙七の1)で示された引用例(実開昭五六-八四九五九。乙七の2)を理由とする拒絶査定を回避するため、昭和五九年七月一六日付け手続補正書において初めて加えられたものである(一頁八行~一一行。乙九)。右引用例には、容器本体の底部に設けられた小穴を封止するため、底部面積にほぼ等しい大きさのシール片を当該底部に付設することが示されていることから、右補正書において、右引用例との違いを強調する手段として、シール片の大きさを底部面積より小さくするとの限定を付したのである。そのことは、たとえば、昭和六〇年二月八日付け審判請求理由補充書(乙一四の1)の六頁以下に、右引用例との違いを強調する中で、「該引例のシール片というのは、……天井板10と略同形の大きさとするか、この面積より余り小さくできないのであり、これを……小さくするとその周囲に切込が露出することになって流動餅を対象とした包装目的が達成できないのであります。従って……底部に当たる天井面全面を封止させている引例と、このシール片を『……小穴より大で底部の面積より小さく形成』した本願考案のものとは実質的に構成が相違するのであり……」(六頁一四行~七頁九行)と明瞭に述べられている。
公知例との比較からみても、本件考案においてシール片が底部面積より小さいことが必須の要件であることが明らかである。本件考案の出願前である昭和五六年二月九日に出願公告された実公昭五六-五八九九号公報(乙一九)には、「適宜の厚みを有し、かつ円弧状に膨らませた周壁下方から下面がわの中心方向に延設させた底部の中央に該底部面積に比較して小さな小穴を設けしめた鏡餅形状をなす合成樹脂製の容器本体」が開示されているとともに、「この容器本体の厚みより薄くし、かつ上記小穴よりも大きく形成させて該小穴の周辺部に融着するようにしたシール片」が開示されている。
すなわち、右公知例には、「第1図、第2図に示す如く硬質または半硬質の合成樹脂例えばポリオレフイン系シート等を圧空成形法あるいは真空成形法等により底部に任意形状の鍔部1を有する鏡餅の形状をした蓋部2を成形し、該蓋部2につきたての柔らかい餅4を充填した後、蓋部2の底に合成樹脂フイルム3例えばポリオレフイン系フイルム等を被せ、該蓋部2の鍔部1に相当する部分をヒートシール法等によりシールし、完全にパックする。その後、殺菌し、冷却固化して得られるものである。このような、合成樹脂フイルムによって包装された鏡餅は、従来のようにつきたての餅を一個ずつ手で丸めて作る手間が省け、作業能率が良く、衛生的で、均一形状で大量生産可能であり、長期の保存に耐えられる優れたものである。」との記載(同公報一欄三三行~二欄一〇行)がある。そして、実施例を示す第2図には本件考案に係る容器本体と略同一とみられる容器が示されているのである。なお、この公知例に示された合成樹脂シート製の容器には底部に鍔部が付設されているものの、円弧状に膨らませた周壁下方から下面側の中心方向に底部が明らかに延設されており、この底部の中央には該底部面積に比較して小さな小穴が設けられている。一方、この底部面積に比較して小さな小穴を閉塞するシール片は、本体を形成する合成樹脂シートよりは薄い合成樹脂フイルムによって形成されており、本件考案との実質的な相違点は、わずかにシール片の大きさに関し、右公知例では底部面積と同じ大きさになっている点だけである。そうすると、本件考案において、シール片が底部面積より小さいことが必須の構成要件であることが明らかである。
そして、被告物件においては、シール片は、小穴よりは大であるが、底部の面積より小さいということはない。被告物件のシール片は、底部面積より少し大きいか、あるいは、カッティング作業の出来ばえが非常によい場合に、稀に同一の大きさになるものもあるものである。したがって、該シール片は、容器本体の底部の小穴の周辺部ではなく、容器本体の底部外周縁において容器本体に融着されることになり、シール片は、面積の点ばかりでなく、融着の態様においても本件考案と異なっているのである。
二 争点2(原告に生じた損害金額)
(原告の主張)
被告は、平成五年一月から同年一二月三一日までの間に、本件考案の技術的範囲に属する被告物件を製造し、これに餅を充填して販売し合計三八四〇万円の売上を得た。原告は、右被告の侵害行為により受けた損害として、右売上高に三パーセントを乗じた一一五万二〇〇〇円の実施料相当額を被告に請求する。
第四 争点1に対する判断
一 本件考案にいう「底部」の意義
本件実用新案登録請求の範囲には、「適宜の厚みを有し、かつ円弧状に膨らませた周壁下方から下面がわの中心方向に延設された底部」と記載されているが、右の記載だけでは、右の「底部」の範囲ないし具体的形状を確定し難いので、以下、本件明細書、願書添付図面の記載、先行の公知例等を参酌してこれを確定することにする。
1 先行の公知例と本件考案の作用効果
本件考案は、鏡餅形状に形成した合成樹脂製の包装容器内に流動状の餅を充填して固化させることにより包装鏡餅を形成するようにした鏡餅成形包装用の容器の改良に関するものであるが(公報一欄一二行~一五行)、従来のこの種容器(特公昭四九-四六九一〇=甲三、特公昭五四-四三五八八=甲四)は、
「鏡餅形状とされている容器本体の底部を全面的に開口させてこの底部がわの外周にフランジを張出し状に形成させているのであり、従って該公知のものはフランジの存在によりお供え用の鏡餅としての形状的なイメージないし商品価値を損なわせると共に、このフランジは物を包むという容器本体の機能を有していないのである。さらにこれらの容器本体には公報の各図面で明らかなように底板が存在しないので、容器本体を逆さまにして上部の開口より流動状の餅を充填する際、特公昭五九-三五五七九号に記載のように該容器を軸芯を中心として回転させ乍ら行うと餅が遠心力作用により開口部周縁から外部に飛散させることになるのである。また餅の充填後においてこの開口部を閉塞させる裏蓋は、開口面積が広いために広面積のものを必要とするばかりか、底板としての強度を保持するために容器本体と同程度の厚みを有する腰の強い裏蓋を必要とするのであり、このように裏蓋が分厚いと上記開口部の閉塞後に内部の餅が冷却してその体積が減じると内部に空洞を生じさせ、極端な場合には容器の一部に凹みや歪変形を生じさせることになるのである。」(公報一欄二四行~二欄一八行)
という問題を有していた。
そこで、本件明細書において従来のこの種容器として引用されているものをみると、特公昭四九-四六九一〇(甲三)は、特許請求の範囲が、
「熱着性素材により成型した二段重ねで、底を開口部としたお供え餅(鏡餅)の形状をした容器内に搗きたての餅を充填し、開口部を封緘し、次で加熱殺菌し、しかる後上段と下段とのくびれた箇所に成型体を着脱自在に嵌装するとともに上段を下にして枠型に収めて冷蔵し固化せしめることを特徴とする包装お供え餅(鏡餅)の製造法。」
というもので、その実施例の説明において、
「……下段3の底部を開口部4とし、かつ該開口部4の口縁に外側方に延びる突縁5を連設したものとし……」(同公報二欄七行~九行)、「次で開口部4に突縁5と同じ大きさのフイルム7を重ねて内部に空気が残存しないように圧着し、しかる後突縁5とフイルム7とを熱接着機(図示せず)により熱接着して開口部4を封緘する。」(同公報二欄一六行~一九行)との記載があり、右実施例を示す第1図では、開口部(すなわち下段3の底部)4として下段3の底面(水平面)に相当する箇所が、突縁5として鏡餅形状の容器下段3の下端から外方に水平に延設されたものが図示されており、また、特公昭五四-四三五八八(甲四)は、特許請求の範囲が、
「必要な強度、形状および構造を有する鏡餅形状容器の内部につきたての餅を充填して該餅を上記鏡餅形状容器の鏡餅の形状に成形すると共に餅と鏡餅形状容器とを密接一体化させ、次いで上記の鏡餅形状容器のフランジ部に蓋材を重ねて密着させることを特徴とする餅の成形包装方法。」
というもので、発明の詳細な説明の欄には、
「……大きい鏡餅に相当する部位底面には横方向に拡がるフランジ部によって開口部が構成されてなる成形包装用具を形成し、次に、該成形包装用具内につきたての餅を充填して該餅を上記の成形包装用具の二段重ね鏡餅の形状に成形すると共に餅と成形包装用具とを密接一体化させ、次いで上記の成形包装用具のフランジ部に蓋材を重ねて密着させる……」(同公報二欄七行~一四行)
との記載があり、その実施例の説明において、
「……フランジ部2によって開口部Pが構成されているものである。」(同公報二欄三一行~三二行)
「次に本発明においては、上記の成形包装用具1の内部に、つきたての餅3を充填して該餅3を上記の成形包装用具1の二段重ね鏡餅の形状に成形すると共に餅3と成形包装用具1とを密接一体化させ、次いで上記の成形包装用具1のフランジ部2に蓋材4を重ねて密着させることによって、餅を成形包装することができるものであり……」(同公報二欄三七行~三欄六行)
との記載があり、右実施例を示す図面では、開口部Pとして鏡餅下段の底面に相当する箇所が、フランジ2として鏡餅形状の容器1の下段の下端から外方に水平に延設されたものが図示されている。
これら先行の公知例に対し、本件考案の構成を採用することにより、本件考案は第二の三に示したような作用効果を奏するものである。
2 明細書及び図面の記載
本件考案の実用新案登録請求の範囲には、〈1〉「円弧状に膨らませた周壁下方から下面がわの中心方向に延設させた底部」との記載、考案の詳細な説明には、〈2〉同旨の記載(公報二欄二〇行~二一行、三欄六行~七行)のほか、〈3〉「内部の餅は上記底部の存在で外部に盛り上るのが堰止められる」(公報三欄八行~九行)、〈4〉「容器本体の底部は該本体の周壁下方を下面がわの中心方向に延出せしめて形成しているので、……上記周壁下方に円弧状に膨出させた丸味をもたせることが可能となって」(公報三欄二八行~三三行)、〈5〉「底部そのものが包装としての機能を有しているため、衛生的であり、かつ単なる裏蓋の接合目的しか有しない前記張出しフランジを形成するのと異なり使用材料に無駄が生じないのである。」(公報三欄三四行~三八行)、〈6〉「さらにこの底部の存在により容器本体を上下方向の軸芯を中心として回転させ乍ら餅の充填をはからしめる際、この餅を外部に溢れ出させることなく本体周壁内面に強く押しこませ得」(公報三欄三八行~四二行)、〈7〉「たとえシール片が剥がれても内部の餅は本体底部で支えられて包装状態を維持しうる」(公報四欄四行~五行)、〈8〉実施例について、「円弧状の丸味をもたせた周壁下方を下面がわの中心方向に向けて略水平状に延出させることにより該下面に底部3を形成し」(公報四欄二三行~二五行)との各記載があり、願書添付図面第1図(公報三頁)では、鏡餅形状容器本体の下段の餅相当部の下面の水平面を3と付番し、図面の簡単な説明において「3は底部」と記載している。
3 結び
以上の諸事実に加えて、一般に鏡餅の形状は願書添付図面第3図(公報三頁)に図示されたとおりであり、下段の大きい方の餅の下面が水平面とされ、この下面の水平面全体で重い鏡餅を台座に安定させているものであり、鏡餅の下面の水平面の円周は下段餅の円弧状に膨ませた周壁下方の端部(下端部)の円周と重なっていること、及び一般に「底部」とは「底の部分。下の方の部分。」を意味し(広辞苑第四版一七五一頁)、「底」とは「〈1〉凹んだものや容器の下の所。〈2〉物体の下面。底面。」を意味する(同書一五〇七頁)ことを併せ考えると、本件考案にいう「底部」とは、容器本体を鏡餅と同じ状態(右第3図の状態)に置いたとき、鏡餅下段の餅に相当する円弧状に膨ませた周壁の下方の端部の円周(下端の円周)に連接する下面の水平面をいうものであることは明らかである。
4 原告の主張について
原告は、本件実用新案登録請求の範囲にいう「底部」とは、周壁下方を排除するものではなく、偏平化された上下二つの球状体の下段の最膨出部から下の部分を意味すると主張する。しかし、本件実用新案登録請求の範囲には、「底部」は「周壁下方」から下面側の中心方向に「延設」されるものと明記されており、鏡餅の底面と同様に、周壁下方の円周上のすべての点から下面側の中心方向に直線的に延設したのが底部と解すべきものなので、「周壁下方から下面がわの中心方向に延設された底部」に、最膨出部から延設の開始点に至るまでの周壁下方も含まれると解することは不可能であり、また、本件考案にいう「底部」を右原告主張のとおりのものとすると、容器本体の下面の水平面全部を開口させたものも本件考案の技術的範囲に含まれることになるが(その場合は、シール片は周壁下端の上部辺の周壁に融着せざるを得ないことになる)、そのようなものは、前記先行の公知例よりも劣悪であり、前記摘示の明細書の記載〈3〉~〈7〉等と明らかに矛盾するし、第二の三記載の本件考案の作用効果(シール片の厚みを本体よりも薄くしたことによる部分は除く)を奏さないことは明らかなので、右原告主張は到底採用できない。
また、原告は、「底部」とは、少なくとも容器本体を台座に置いたときシール片の周縁が外部から視認されない範囲を意味すると主張するが、右主張は被告物件が本件考案の技術的範囲に含まれることになるよう意図して「底部」を定義したものにすぎず、本件実用新案登録請求の範囲、考案の詳細な説明及び図面の各記載を無視する見解なので、右原告主張も採用できない。
また、原告は、本件明細書において「底部」を「底板」「下面」から区別しているから、「底部」を「底板」なり「下面」と同一のものとは考えていないことが明らかであると主張するが、原告が引用する「底板」(公報二欄四行、一二行)なる記載は、従来技術において、容器の「底部」を全面的に開口させていたことを説明する文脈の中で用いられたものであり、また、「下面」(公報二欄二一行、三欄六行、二九行)なる語は常に「下面がわ」として使用され位置関係を示す意味で用いられており、特に本件考案の「底部」と用語上区別するような意味で用いられているとは認められないから、右原告主張も採用できない。
二 被告物件は、本件考案の構成要件5を充足するか。
被告物件は、いずれもシール片が右に判示の容器本体の底部面積より大きいことに争いはないから、本件考案の技術的範囲に属しないことは明らかである。
第五 控訴審での原告の主張とこれに対する判断
一 原告は、前記の「本件考案にいう『底部』とは、容器本体を鏡餅と同じ状態(右第3図の状態)に置いたとき、鏡餅下段の餅に相当する円弧状に膨ませた周壁の下方の端部の円周(下端の円周)に連接する下面の水平面をいうものであることは明らかである。」との説示における「端部」は、稜線状態のものを意味すると解されるところ、このようなものは本件考案の要件とはなっておらず、滑らかな曲率半径での円弧面が連続したものも、本件考案が排除するものではない趣旨を述べる。
しかしながら、原告主張のような構成も含むとすれば、容器本体の下面の水平面全部を開口させたものも本件考案の技術的範囲に含まれることになること、前記説示のとおりである。右に引用した説示部分を誤りとする原告の当審における主張は、採用することができない。
二 原告は、本件考案の容器が特定の成形法で製造されるものであることを前提にして、前記認定を誤りとする。なるほど、本件公報の考案の詳細な説明中には、「容器本体をブロー形成の手段によって形成しうる」との記載はあるが(三欄三〇行~三一行)、これは効果について触れている部分にすぎない。本件考案の登録請求の範囲には製法を限定する要件はなく、原告の右主張も採用することができない。
三 原告は、被告物件も、ブロー成形法による鏡餅形状容器であり、そのシール片の大きさと融着位置のみを、本件考案から回避するため恣意的に若干改変したものにすぎず、被告物件は本件考案の均等物に該当する、と主張する。
しかしながら、被告物件は、本件考案の構成要件5のうち「底部の面積よりも小さく形成させた……シール片」の要件を充足しないことにより、つまり、シール片の周縁が容器本体の底部外周に露出することにより、本件公報で示されている本件考案の作用効果、すなわち、お供え用の鏡餅にふさわしい端正な形状の容器が得られるとか、使用材料に無駄が生じないという作用効果を奏することがないのであり、被告物件が本件考案の均等のものということができないことは明らかである。
第六 結論
よって、本訴請求は理由がなく、請求棄却の原判決は相当で、本件控訴は理由がない。控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用の上、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 塩月秀平)